耳元のカレーラス

もう随分と昔の話。

オペラを歌う女性の友人と夕食をご一緒しました。いつ聞いても他業種の方のお話しは楽しいものです。オペラ業界の昨今の景気話に始まり、昨年暮れに楽しませていただいたクリスマスコンサートの舞台裏話、最近聞いている(気になっている)音楽の話と、夜遅くまで声が弾みました。 

そんな彼女が身震いする程聞き入ったオペラ歌手の歌声は、誰でも名前は聞いたことのあるホセ・カレーラス。彼女いわく「最初は彼の技術を盗んでやろうかと必死で耳を傾けていたわ。でも途中からもうそんなことどうでも良くなっちゃったの。今に酔いしれようって。だって、カレーラスが私のこの耳元で声を震わせているんだもの。」

その場にいた一同大爆笑でしたが、なんとなくその表現とその場その瞬間の情景はわかる気もしました。流行言葉ではありませんが「カリスマ」を持った人間というのは、目の前に登場した瞬間からあらゆる五感と心を惹き付け、周囲の人間のエネルギーを吸い寄せる力を持っているのでしょう。多くの人間を一度に魅了するその力は「天才」が「努力」を持ってして初めて成せる技であるとも言われます。

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